M2Challenge

将来の月惑星ロボット探査について考えるコミュニティです.

宇宙開発の潮流と超小型着陸ミッション

1969年アポロ11号ミッションによって人類は月面に到達しました. リアルタイムでニュースを見ていた方は恐らく一生物の胸の高鳴りを経験したと思います. その後人類は1972年のアポロ17号を最後に約半世紀の間月面に足を踏みしめることはありませんでした. しかしながら近年NASAによってAltemis計画が発表され, 近い未来に再び人類が月面に行くことが決まりました. 私が生きてる内に天体上での有人活動を目撃できることは非常に楽しみです. そして宇宙開発を取り巻く環境は半世紀前と比較して大きく変化していますので, この計画は宇宙開発の潮流の大きな転換点となるのではないかと予想されます.

半世紀前のアポロ計画の時代には, 宇宙開発は国家プロジェクトであり国家機関の主導によって行われていました. その時代の宇宙開発は国家の威信をかけた競争の意味合いが強く, 参加できるのは潤沢を資金を有する少数の国家に限られていました. その一方で近年の宇宙は民間企業や大学, 途上国など新たなプレイヤーにとっても決してハードルが高すぎるものではなくなってきています.

地球周回衛星の世界では, 地表の撮像やインターネット通信のルータの役割を担える超小型衛星が頻繁に打ち上げられるようになりました. 数10~数100kg程度の超小型衛星は数トン程度の大型衛星と比較して開発費は約1/100と言われており, 大学の研究室や企業, 途上国なども衛星を所持し, 利用することはかつてほどハードルが高いものではなくなりました. (参考) 開発費もさることながら, 打ち上げコストも安くなります. なぜならば, ロケットや補給船に搭載可能ペイロード(荷物重量)に対し, 主目的となるペイロードに余裕がある場合に余剰となるペイロードを有効活用することが可能となるからです. そしてこれらの衛星を利用したビジネスも生まれています. 一例にすぎませんが, 衛星から工場の前に並ぶトラックの台数を観測したデータなどは金融業界にとって価値の高い情報となるようです. 

さて本題の"着陸"の世界はどうなっているでしょうか. 月や火星に直接宇宙機を降ろす着陸ミッションでは, 周回衛星からでは難しい地表の詳細な観測や,サンプリングなど, あくまで科学探査に絞っても非常に価値の高い活動が可能です. これまでにNASAESAが火星に探査機を送り込んでいる他, 中国も月面への軟着陸に成功しています. 現在の着陸ミッションは国家の研究機関主導で行われ, まだまだ民間や研究室にはハードルが高いものとなっています. しかしながら, この状況は今後数十年で大きく変わると思われます.

先述のAltemis計画では, CLPS(Commercial Lunar Payload Searvice)という枠組みが制定されており, 物資を運ぶ輸送系となるロケットや着陸機は民間企業が担うことになっています. 民間企業が輸送をサービスとして提供することで, お金さえ出せば月面上に物資を持っていくことができるという世界になり, 月面そして将来は火星表面に着陸するハードルは今とは比べものにならないほど低くなると思われます. iSpaceなどのスタートアップ企業は, 月面上をローバ(移動ロボット)により探査し, 水の存在に関する地図情報を宇宙開発機関などに販売するビジネスモデルを提唱しています.  現在, 超小型地球周回衛星で起こっているのと同等のことが数十年後には超小型着陸ミッションの世界にも起こるだろうと思われます.  月, 火星表面へ数多くの便が発着する未来においては, まさに超小型衛星の世界で起きているように, 民間企業, 大学, 新興国などの新たなプレイヤー参入し, 新たなビジネスや小回りの効いた研究活動が行われると考えられます. 私たちM2 Challengeの活動の目的は, この未来に必要とされるであろう超小型宇宙機の活用方法を検討することです.